(2026年10月31日 更新)
『25時のバカンス』は、『宝石の国』の市川春子による作品集の第2弾です。 2011年9月に講談社のアフタヌーンKCから刊行され、表題作の前後編と「パンドラにて」「月の葬式」の3作を収録。 静けさと幻想が同居する独特の世界観はこの1冊にすでに完成されており、 マンガ大賞2012で第5位に選ばれました。短編集なので1冊で完結し、 市川春子の入門としても、『宝石の国』読了後の1冊としても最適です。
作品情報
| 作者 | 市川春子 |
|---|---|
| 出版社 | 講談社(アフタヌーンKC) |
| 巻数 | 全1巻(短編集・作品集第2弾) |
| 発売日 | 2011年9月23日 |
| 収録作 | 「25時のバカンス」(前編・後編)/「パンドラにて」/「月の葬式」 |
| 受賞 | マンガ大賞2012 第5位 |
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あらすじ
表題作「25時のバカンス」は、深海生物の研究室に勤める姉・乙女のもとを、 しばらく会っていなかった弟・甲太郎が訪ねてくるところから始まる物語。 再会した姉弟の穏やかな時間の裏で、姉の身体にはある「変化」が静かに進行しています。 人と人ならざるものの境界を見つめる、美しくも不穏な中編です。
「パンドラにて」は、土星の衛星にある女学院を舞台に、不良学生のナナと 奇妙な新入生ロロの交流を描く一編。「月の葬式」は、試験の日に電車を乗り間違えた天才高校生が、 雪深い北の果てで「王子」と呼ばれる男と出会い、共同生活を始める物語です。 どの短編も説明を最小限に抑えた語り口で、 読み手の想像力に委ねる余白がたっぷり残されているのが特徴です。
主な登場人物
| 乙女(おとめ) | 「25時のバカンス」の姉。深海生物を研究している。その身体には、ある「変化」が静かに進行している。 |
|---|---|
| 甲太郎(こうたろう) | 「25時のバカンス」の弟。久しぶりに姉を訪ねてくる。ぎこちなくも穏やかな再会の時間が、物語の軸になる。 |
| ナナ / ロロ | 「パンドラにて」の二人。土星の衛星の女学院で出会う不良学生と、奇妙な新入生。 |
| 王子 | 「月の葬式」で、北の果ての地で天才高校生が出会う謎めいた男。 |
見どころ
後の代表作『宝石の国』に通じる、生と死、存在の儚さを見つめる独特の詩情が、 既にこの作品集で確立されている点が最大の見どころです。 身体の欠損や変容といったモチーフ、鉱物や貝のような無機物と生命の混ざり合いなど、 市川作品を象徴するイメージの原型がそこかしこに見つかります。
白場を大胆に使ったコマ運びと、消え入りそうに繊細な線。 派手さはなくとも、一度読むと忘れられない静かな余韻を残す作品ばかりです。
3作はそれぞれ舞台も時代もまったく違いますが、共通しているのは 「人と、人ではないもの」が出会い、互いを理解しようとする物語であること。 海の底、土星の衛星、雪に閉ざされた北の地という、遠く隔たった場所で ふたりきりの関係が育っていく構図は、市川春子の作品世界の核と言えます。 1冊を読み終える頃には、この作家にしか描けない「さみしさの手触り」が残ります。
市川春子のほかの作品
作品集の第1弾『虫と歌』は第14回手塚治虫文化賞新生賞を受賞しており、 本作と同じく1冊完結の短編集です。 その後に始まった長編『宝石の国』では、本作に見られる「身体の変容」や 「人ではないものの心」というテーマが、より大きなスケールで描かれていきます。 短編から長編へ、作家の関心がどうつながっていくのかを追うのも楽しみ方の一つです。
こんな人におすすめ
- 『宝石の国』などの市川春子作品のファン
- 静謐で詩的な短編漫画が好きな人
- 幻想文学的な世界観が好きな人
- 1冊で完結する質の高い短編集を探している人
よくある質問
- 『虫と歌』とどちらから読むべきですか?
- 刊行順ならデビュー作品集『虫と歌』が先ですが、独立した短編集なのでどちらから読んでも問題ありません。
- 『宝石の国』を読んでいなくても楽しめますか?
- 楽しめます。物語のつながりはないので予備知識は不要です。むしろ本作で作風が気に入ったら『宝石の国』へ進むのがおすすめです。
- 何作品入っていますか?
- 表題作「25時のバカンス」(前編・後編)、「パンドラにて」、「月の葬式」の3作です。どれも独立した物語なので、好きな順に読めます。
